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stories.3

パリのオフィスに似合う
シンプルな厨子。
一日の大半を私と一緒に
過ごし、私と
仕事を
見守ってくれる仏様の家です。

ピコレ・フサエさん

木製の厨子

ピコレ・フサエさんが、フランスに渡ったのは43年前。渡仏してからファッションディレクターとしてコンサルタント活動を始め、ファッションを哲学的にとらえ発信したり、提言することで日本とパリを繋ぐ役割を果たしてきた。
そんなフサエさんがずっと欲しかったもの、それはパリの仕事部屋に置く「厨子」だった。そこに安置した仏様の存在を感じながら仕事をしたかったからだ。

「私にとって仏様は、何かを願ったり祈ったりする対象ではないのです」とフサエさんは言う。「そうではなくて、そこにいらっしゃるという存在を感じていたいものなのです。なぜならその存在感が私を安心させてくれるから。毎日仕事場に入ると、厨子があることを確かめ、仕事をしながらも横目で厨子を眺めます。そうすると心が落ち着き、仕事や考え事に集中できるのです」と。

「祈りは心の中にあるもの」とフサエさんは思っている。だから、厨子を持たなかった今までも祈りを忘れた暮らしを送ったとは思っていない。しかし、その祈りを受け止めてくれるものが何か「かたち」として傍らにあれば、心の中の祈りがどこかに通じていくような気がして、フサエさんはその「かたち」を探していたのだ。

木製の厨子

だから、帰国したときに、まっすぐな直線をもつ木製の清らかな姿の厨子に出会ったとき、「欲しかったのはこれだ」と思った。モダンでありながらなぜか厳粛な空気を醸し出し、人の生き方についてのメッセージを送ってくれているようなその厨子が、「物から精神の世界に、早く行き着きたい」と願っているフサエさんの気持ちにぴたっと添った。そしてそれはまた、パリの仕事場にもきっとぴたっと添うだろうと、フサエさんは思った。

今、フサエさんは、そうして選んだ厨子の中に、彫刻家の久村卓氏の鉄仏を安置して楽しんでいる。そう、彼女は本当に「厨子のある仕事場」を楽しんでいるのだ。なぜなら、そこは彼女にとって、明るい日差しと、厨子の醸成する安心で穏やかな空気の中で、好きな仕事が思い切りできる、とっておきの、そしてかけがえのない場所だからだ。

出典:「新しい祈りのかたち」を創る
発行:繊研新聞社