国内外のアンティークや工芸品などを提案するライフスタイルショップの草分け「サボア・ヴィーブル」。外山恭子さんは、この店の共同経営者の一人として30年にわたり、品揃えや個展の企画などに携わってきた。
良質な工芸品をバイイングしてきただけに、物を見極める確かな目には定評がある。アルテマイスターの厨子について知ったのは、漆工芸家の東日出夫氏を通じてだった。
「東さんには以前からサボア・ヴィーブルで個展を開いてもらっていて、お互いに今、何を考えているのかが分かるくらいの仲。何年か前に『今、こんな仏壇を作っているんです』と写真を見せてくださったのですが、ひと目見て素敵だと感じました。それがアルテマイスターの厨子だったのです」と外山さんは振り返る。興味を持ったが、「写真では大きさがつかめなかったので、銀座のギャラリー厨子屋さんへ出かけました。実物を見ると、それほど大きいものではないのに存在感がある。函の佇まいやそこに施された加飾が醸し出すものだけではない、心地良い厳かさを感じました」。
その頃、外山さんは仕事のかたわら高齢の母親を引き取り、一緒に暮らしていた。母親は大きな仏壇を持って越してきたという。しかし、日本の風習や先祖に対する思いとは別に、間接照明を配した洋間とのギャップがどうにも気になった。「仏壇も毎日見ていて心地良いものがいい」と考えていたときに出会ったのが、東氏の厨子だったのだ。さっそく東氏と連絡を取り、「蓬菜紋彫り古文字厨子」をオーダーした。
オーダー品の古文字厨子には、東氏のアドバイスを受けて家族の個性なども織り込んでピックアップした言葉を、中国・殷時代の古文字に変換して、鎌倉彫と高蒔絵で厨子の各側面に施してもらった。正面には鶴や亀、万象、左側面には住還や元気、右側面には無限や恭、背面には素直や頑固、そして上面にはOORAKAや歓などの古文字がデザインされている。
この厨子をオーダーして、「東さんは仕事に対して決して手を抜かない人だと改めて認識した」と外山さん。東氏は「緑青の色がちょっと違う」など微妙なディテールについても、違和感があれば、そのつどやり直してくれたのだそうだ。
「人の気持ちに寄り添って作ってくださる。そうやって、インテリアとしても心地良い厨子が完成しました。毎日の暮らしの中で、ふと目が向かう、心が向かう厨子です」と、外山さんは話す。
出典:「新しい祈りのかたち」を創る
発行:繊研新聞社